2009年11月14日(土) 山梨日日新聞掲載
冬枯れ後、「氷の芸術」に

「霜柱」ってご存知ですよね。八ケ岳では11月の風物詩。喜んだ子供が踏みつけたりして足跡を残しています。そんなにぎやかな光景もまたいい。
 でもぼくにとっての「シモバシラ」は植物。とても清楚で素敵な花なのです。シソの仲間のこの花は、10月ごろ白い小さな花が穂のようになって林の中でかすかに主張しています。咲いても素朴すぎて気がつかない人もいるので「かすかに主張」
 しかし八ケ岳の11月は俄然このシモバシラが主役に躍り出る季節! 名前の由来にもなった茎の根元につくられる「氷の芸術」が通る人の眼を釘づけにしています。
 この不思議な現象は風のないよく晴れた日、朝早くに見られます。もちろん氷の芸術だから氷点下の寒い朝に限りますね。
 遠くから見ると、真っ白の氷がまるでティッシュの塊のように見えます。なんだか芸術品をティッシュに例えるのもなんですがそれはまぎれもなくティッシュ! 拾おうと手をのばして初めてそれと気がつく、という失態を毎年繰り返しているのもまた内緒にしたい恥ずかしい話です。
 芸術品は何も説明なしに鑑賞するのが王道でしょうが、あえてその秘密を解き明かしたいと思います。
 このシモバシラ、まるで二重人格。地面の上の部分と下の部分で違うことを考えているのです。
 地上くん「寒いな...葉を落し茎を枯らしジッと冬を待つこととするか...さぁ我慢の季節だ...」
 地下くん「いやいや、まだ頑張ろうぜ! 冬眠するにはまだ早い!」
 この性格の違いこそが見事な氷の芸術を作るのです。
 初冬、もう眠ることを決め茶色く枯れた葉っぱや茎に、根っこは張り切ってどんどん水を送り込みます。その水は地上くんに使われることなく行き場を失いウロウロしているところに氷点下にさらされる。すると枯れた茎の中で水は凍りつきます。地下くんはかまわずさらに水を。するとどんどん茎の中で氷が成長し膨張するのです。茎が裂け氷があふれ、卵のようにふくらみ、そして最終的には大作「ティッシュ」の完成! というのがこの作品の出来る仕組みです。
 八ケ岳では11月だけ、里では冬の間条件がそろえばずっと見られる現象。
 どうです? 野の花、数あれど冬枯れしてから主役になる野草もあるのです。そんな冬の花、育ててみてはいかがですか。
 あっ早起きしなければ見られないのが悲しくもいいところ。あたたかい布団を飛び出すいい理由になるといいのだけれど。20091114_016_1.jpg

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